5.「ちいさな灯り」アニメーションの作り方

ポーの持っているろうそくに再び火が灯りました。
これにポーが喜び、テムに心を開くシークエンスが
第一話のハイライトで、「アニメパート」へと入っていきます。
このような情感を描き出すシーンでは、
静止の絵よりもアニメーションの方が優れています。
ポーは表情をほとんど変化させないキャラクターなので、
動きで感情の機微を表現しなければなりません。

 

この作品では、「切り絵アニメーション」という手法が使われています。
キャラクターや背景の絵をパーツごとに分けて描き、
その絵を少しずつ動かして撮影していく手法です。
撮影台にはガラス板が6枚置かれていて、(マルチプレーンと言います)
その上にそれぞれ絵を乗せることで

奥行きのある画面を作ることが出来ます。

僕がこの手法で好きなところは、何よりも光を美しく表現出来ることです。
画面に感じられる独特の温かさや空気感は、
切り絵アニメーションならではのものです。

 

まずシーンの構想をラフにスケッチしていきます。
このとき絵の奥行きや視点など切り絵アニメーションの得手不得手を
意識しながらレイアウトを考えています。

 


だいたいのレイアウトが決まったら、絵コンテを描きます。
この絵コンテで各カットの長さやアクションを決めておきます。
この作品では楽曲が先にある状態だったので
曲の流れに合う様にそれぞれのカットを考えていきました。

 

 


そして素材を作っていく前にもう一準備。
マルチプレーン撮影台ではカメラから異なる距離に何枚もの絵を置くので、
それぞれの絵がどの層に置かれるのかを決めなければなりません。
カメラから近い層に置かれる絵は小さく、
カメラから離れるほど大きい絵が必要になってきます。
それぞれに必要なサイズを割り出す為に
撮影計画表というものを書きます。


左上のコマにカットの完成予想図、右に縦に並んでる一回り小さいコマに
それぞれの層に分解した絵を描きます。


絵を描く素材は作品毎に異なりますが、
この作品では透明なセルに下地を塗り、
その上にペンで描画、透明水彩で彩色しました。


またガラス板に乗せた時、反射した像が
画面に映り込んでしまう場合があるので、
裏側に黒い絵の具を塗る「裏塗り」という作業をしたりします。

 


こうしてようやく出来た素材を
(意外に素材をそれぞれ切り抜く作業が馬鹿にならない)
いざマルチプレーンの撮影台に乗せ、
撮影準備完了!

 

とはならず、最後にまた重要な作業が残っています。
それは「ライティング」です。
上述したように、「切り絵アニメーション」の魅力は光の表情です。
「ライティング」次第で同じ絵を使っていても、
最終的に出来上がる画面はまるで違うものになっていきます。

 


10個ほどのクリップライトで各層を照らし、
カラーセロファンで光の色を決め、
光源が映り込まない様に暗幕を各所にセットし、
仮撮影してみてはああでもないこうでもないと延々といじり続けます。

 


最終的な見栄えに影響するこのライティング作業は
だいたい30分〜1時間、カットに寄っては
2時間以上要するときもありました。


 

 

こうしていよいよ撮影の為の準備が整いました。
あとは、絵コンテで決めたアクション通りに、
キャラクター達をピンセット片手に動かしていきます。
撮影はミリ以下の単位で動かすこともあるので
とても時間と根気がいる作業です。
また一度撮影を始めたら途中で止めることは出来ません。
動きの流れが分からなくなるからです。
ちなみに僕は撮影時プレビューをほとんどしません。
コマ撮りの為のソフトも使っていないので、
前の写真を確認したくなったときは
撮影台についているカメラの小さな画面を
窮屈な姿勢で覗き込んでいました。

 

 

そんな風にして撮影された写真をPCに取り込み、
色調補正や各種エフェクトなどで仕上げます。
撮影が困難なとても小さいパーツのキャラや
一度に多くのものが動いているカットなどでは
合成を用いています。

こうして「ちいさな灯り」のアニメーションは完成です。

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